「アジアの新世代女性監督からの提言」をテーマに、「今、このまままがいい」(韓国)のプ・ジヨン監督、「チベットの音調」(中国)のチャン・ルイ プロデューサー、ソウル国際女性映画祭のイ・ヘギョン ディレクターの3名がパネラーとして参加。当映画祭木全ディレクターの進行のもと、最近の関心事や各国の映画業界、女性監督の動向、映画教育などについて各パネラーが発言。
チャン・ルイさんは、日本語であいさつした後、「民族や文化に興味があり、映画を通して文化理解、交流を促進していきたい。」と語りました。プ・ジヨン監督は「私自身が二人の子どもを育てる主婦として、資本主義社会、競争社会における現在の教育、職場のあり方に関心があります。また、これらは私の社会的な関心事でもあります。」と述べました。イ・ヘギョンさんは、「長い間、女性文化、女性運動に参加し、その活動の一環として女性の目線からの映画祭を開催し続けてきました。そうした活動を通して女性が自信を持つことが必要であり、男女の違いを生かして今後も活動していきたいです。」と語り、さらに、近年の韓国における“子ども中心社会”と言われる過度の教育投資や、若い女性の高級ブランド嗜好などについても懸念を表明しました。
次に映画業界の動向と女性監督の地位について、チャン・ルイさんは、「国内の映画は発展しています。映画館には1、2週間に一度行きますが、チケットが買えないこともあるくらいです。国内外の作品も多いですが、私が子どものときに比べると日本の作品よりもアメリカの作品が増えていると思います。また、男女平等で、女性監督の地位は向上していて、数も多く2、3割はいます。」と発言。
プ・ジヨン監督は、「体感的なことなのですが、以前は国からいろいろな面で援助を受けることが出来ましたが最近では少なくなったように感じています。しかし、自主制作の低予算映画が活発化していて、女性監督も増えており、商業ベースで活躍する女性監督はだいたい30名くらいいますし、女性スタッフも40%ほどになると思います。」とコメント。
イ・ヘギョンさんも「映画産業と政治は密接な関係があり、現政府は映画に対する関心が薄く、残念に思っています。韓国にはプサン国際映画祭など多くの映画祭がありますが、近年、消えていくものもあり、映画界では“恐怖”として受け止めています。一つの希望は、最近、低予算映画であっても、数多くの国際映画祭で上映され、注目を集める作品が出てきたことです。」と述べました。
最後に、各国の映画教育について、「中国では映画を撮るのは自由です。私自身は当時アジアで唯一といわれた北京電影学院で学びました。学部も多く監督術、表現方法、撮影、制作など映画関連のこと全てについて学ぶことができ、影響力も非常に強いです。しかし、入学への競争は激しく、試験も難しいです。」とチャン・ルイさんが語りました。
イ・ヘギョンさんは、韓国の映画教育について、「韓国の監督には人文学、社会学などを学んだ人たちが多くいます。映画は、商業ベースの金儲けでなく、何かを考えさせる、社会を補う役割があります。映画制作に携わるにはいろいろなことを勉強する努力はもちろんのこと、テクニックやメディアに通じるることも必要です。」と発言。プ・ジヨン監督も「映画大学や専門学校は国立、民間ともにあります。映画関連の学科も多く、勉強の機会は数多くあります。このほか、映画制作に参加するチャンスとして、制作スタッフになったり、短編映画で評価を得たり、資金調達して商業的に成功するという方法もあります。」と述べました。
コーディネーターの当映画祭木全ディレクターは、「日本では商業ベースの女性監督は6、7%に過ぎず、映画教育の環境も中国や韓国と比べ立ち遅れている。近年は、短編作品の制作者が増えてきているので、今後、こうした女性監督の支援が重要。」と指摘。
その後、会場からの質問もいくつかあり、「家事と仕事の両立はできていますか。」という質問に対して「心の負担はありますが、母や周りの人たちにお願いして育児をしています。私は周りの人たちの支援のおかげで今仕事をしています。」とプ・ジヨン監督は笑顔で答えました。
また、「韓国でタブーのテーマはありますか。」という質問について、イ・ヘギョンさんが、「北朝鮮を称賛するものはダメかもしれませんが、具体的にはないと思います。性的、暴力的な映画に対する基準も曖昧なところがあります。」と答えました。
その後も、質問が後を絶たず、名残惜しい雰囲気の中、予定時間を30分近く延長し、大盛況のうちに終わりました。
(平松)