監督である鯨エマさんは役者活動も行う傍ら、今回の題材となっている60歳以上のアマチュア劇団「かんじゅく座」を3年前に立ち上げました。作品には、ほとんどが演劇未経験者であり様々な経験を持つ14人の劇団員が初舞台を目指し奮闘した7ヶ月間が収められています。作品上映後のゲストトークでは、監督は発声のエクササイズしたり、持ち前のキャラクターで常に楽しい雰囲気に包まれました。
Q 今回どうしてこのドキュメンタリーを制作しようと思ったのですか?
鯨監督 以前にも一度ドキュメンタリーを制作したことがあるのですが、「かんじゅく座」を立ち上げたときにおもしろい題材になりそうだったので、初めからカメラを入れて練習風景から撮影していました。カメラには劇団員のみなさんも意識してしまうようで、インタビューのときには緊張していました。
Q ドキュメンタリーの監督と、劇団の監督の二足のわらじは大変でしたか?
鯨監督 ドキュメンタリーにおいて自分の立場をどうするかということが大変でした。ナレーションでは“私が”と一人称にするか、三人称にするか迷った末に、“エマさん”と呼んでもらうことにしました。カメラのテープは全部で70本以上になり捨てる部分がほとんどになってしまうのですが、劇団員の人たちとは数ヶ月の付き合いを経て愛情を感じるようになってしまって自分では切れないので、編集はプロの方にまかせました。
Q 人生の先輩である劇団の方たちへの接し方はどのようにしているのですか?
鯨監督 私自身はなるべく優しく言っているつもりなんですが、夢中になるとどうしてもストレートに言ってしまいます。演劇の用語には「ダメ出し」というものがあるのですが、それをするとみなさん叱られたと思ってしますようです。こちらとしては、“こうしたほうがもっとよくなるよ”というサジェスチョンとして言っているのですが。今の高齢者の方は元気な方が多く、“もっとやりたい!”というガッツを持っています。なので、1回の練習で1回褒め、プレッシャーも与えるというような接し方をしています。
Q ドキュメンタリーを制作する際の苦労はありましたか?
鯨監督 14人全員を撮るのは無理だと思ったので、最初は大人しい人3人くらいにしぼってその人たちが成長していくサクセスストーリーを作ろうと思っていたんです。でも、人はそんなに短期間で変わりませんし、みなさん素直すぎて映画にならないということになってしまって。そこでみなさんの家族の追加撮影も行ってドキュメンタリー制作に至りました。
Q 鯨監督は今俳優業に脚本、監督とさまざまな仕事をしていますが、今後もいろいろな活動を行う予定ですか?
鯨監督 本業は役者がいいと思っていますが、そのとき表現したいスタイルで表現すればいいのではないかと思います。「かんじゅく座」のみなさんが演劇を始めて人生の再スタートを切っているところを見ると、“もう一回がんばらなければ!”と思うことができ、最近役者への復活も果たしています。
劇団を立ち上げるまで私は、高齢者の方はありあまる時間を持っていて悠々自適な生活を送っていると思っていました。しかし、それは勘違いで、みなさん親の介護や体の手術、仕事に孫の世話と、大変な生活を送っていることがわかりました。その忙しい生活の中で週6時間練習に来ていただいて、来るときはこわい顔をしている方もいるのですけれど、帰るときにはスッキリとしていて、それを見るとうれしいです。これからも細く長く劇団を続けていくことを目標にします。
(河口)